『たまらない!マレーシアのコピティアム』― 7月のマレーシア訪問を前に、伝統的なコーヒーショップ「コピティアム(Kopitiam)」に惹かれる理由を考えてみた―

2026年7月に予定しているマレーシア訪問。
まずは、その第一歩として心惹かれている
マレーシアの「コピティアム」について
私の視点から紹介したい。

目次

はじめに

クアラルンプールの朝、初めて入ったコピティアム

2025年7月、クアラルンプールで宿泊した
コンドミニアムの隣に、
グーグルマップで見つけたひとつのお店があった。

10時頃、ちょっと遅めの朝ごはん。
カヤトーストとコーヒーを食べたいな。
そんな軽い気持ちで、私はその店に入った。

朝から賑わっていた

店構えは中国語の表記もあり
中華系の感じがする。

中に入ると天井には大きなファンがゆっくり回り、
短パンに草履、お揃いのポロシャツと
エプロンをつけた男性店員たちが
店内を行き来している。

店の真ん中あたりには丸い大きめのテーブル、
奥の方には大理石風の天板の机に、木製の椅子。
私は奥のテーブルに通され、
パウチされたメニューを手渡された。

カヤトーストとコーヒーで300円弱
このカヤジャムが絶品

店内を見渡すと、
一人で来ている人もいるが、多くは複数人。

同僚のような5人組。
夫婦らしき人。
友人なのか、仕事仲間なのか、
関係性のわからない人たちも。

皆、朝からコーヒーを飲み、
食事をしながら談笑している。
観光客というより、地元の人たちに思えた。

店員たちもどこか自由だった。
客が少ない時は、
窓の外を見ながら大きなあくびをしたり、
ふと立ち止まって物思いに耽っていた。

完璧に整った接客ではない。
でも、その飾らない人間らしさが、
私には妙に心地よかった。

あとから知った。
この空間は、「コピティアム」
と呼ばれているものだった。

今どきのおしゃれなカフェとは言えないが、
古き良き空気をまといながら、清潔で、賑やか。

なぜか懐かしさを感じ、
そこにいる人たちをぼんやり
眺めている時間が楽しかった。

まるで私自身が、この街の日常の
一部に自然に溶け込んだかのような感覚。

「ああ、ここ好きだな。」そう確信した。

あの朝に感じた確かな感覚こそが
私がコピティアムに惹かれていった始まりだ。

「茶館研究」をしていた大学時代の記憶

あなたには「萌える」という瞬間はあるだろうか。

例えば、推しのアイドルや
俳優を見た瞬間、胸が高鳴ったり、
ライブ会場へ向かう電車の中で、そわそわしたり。

好きな歌手のライブの当選がわかった瞬間、
思わず声が漏れそうになったり。

「好き」という言葉だけでは収まらない
身体の奥底から反応してしまうような感覚。

私にとってまさにその感覚を引き起こすのが、
「コピティアム」という空間だ。

ホテルのようなラグジュアリーな空間で、
アフターヌーンティーをするのも好きだが、
それは“萌える”という感覚とは少し違う。

コピティアムは、写真で見るだけでも胸が高鳴る。
脈が速くなり、痺れるような感覚になる。

「ああ、たまらない!」と思わず叫びたくなる。
そんな私の感性を刺激する空間なのだ。

この感覚には、覚えがあった。
大学時代、中国・杭州へ留学していた頃のこと。

1年半の留学期間のうち、
後半の1年は授業の合間を縫って、
中国各地を足を運んでいた。

四川、新疆ウイグル自治区、敦煌、雲南…

その土地ごとに街の空気は全く異なる。
そんな旅の途中、
少し休憩しようと思った時、
私はあることに気づかされた。

杭州では当たり前のように
存在していたものが、そこにはなかった。
それが、「茶館」だった。

雲南では茶館が見つからなかった。
四川には、茶館があったが、
その姿は杭州とは全く違っていた。

その時初めて、私は知った。

「杭州にある茶館」は、
中国全土に共通するものではなく、
“杭州式茶館”とも言える独特の文化だったのだ。

そこから、私は杭州式茶館に強く惹かれていった。

茶館は、ただお茶を飲む場所ではなかった。

ビジネスの商談。
婚姻の顔合わせ。
人と人との交流。

社会の中で、
なくてはならない空間
として機能しており、
特に杭州式茶館は、一般的な喫茶店とは
システム自体が違っていた。

最初にお茶の種類に応じた料金を支払う。
すると、その中に中国茶だけでなく、
お菓子や果物、ひまわりの種などが含まれており、
好きなだけ楽しむことができた。

お店によっては小吃(シャオチー)と呼ばれる、
麺や炒め物などの軽食も用意されていた。

当時は、時間制限も比較的ゆるく
何時間もそこに居続ける人も珍しくない。

私も友人と半日をそこで過ごすこともあった。
お茶もお湯を継ぎ足して、
途中で茶葉を変えて楽しんだ。

そこは単なる「飲食店」や「カフェ」ではなく、
“生活の延長線上にある公共空間”のようだった。

なぜ杭州では、このような文化が根付いたのか。
その好奇心から、私の研究が始まった。

調べていくうちに、橋本龍太郎元首相が
招待された世界遺産の西湖を望む国営の茶館と、
若者たちが集まる洗練された私営の茶館という、
異なる茶館文化の存在を知る。

私はそこで中国人の知り合いに協力してもらい
アンケート調査を行い、実際に空間へ足を運び、
その場所がどのように使われているのか、
フィールドワークを重ねた。

そして今、私はまた別の空間に惹かれている。
それが、マレーシアの「コピティアム」だ。

コピティアムとは何か

語源(kopi+tiam)

「コピティアム(kopitiam)」とは、
マレー語で「コーヒー」を意味する
kopi (コピ)」と

福建語で「店」を意味する
tiam(ティアム)」
を組み合わせた言葉である。

コピティアムでは、
コーヒーや紅茶などの嗜好飲料に加え、
カヤジャムを塗ったトーストなどの
軽食が提供される。

特に、砂糖とマーガリンを加えて焙煎した
濃厚なコーヒーやココナッツミルクと
パンダンの香りを用いたカヤジャムは
マレー半島を代表する味覚の一つとされる。

また、マレーシアを代表する料理である
ナシレマラクサなどを提供している店もある。

ナシレマは、ココナッツミルクで炊いたご飯に、
サンバル(辛味調味料)、小魚、ピーナッツ、
ゆで卵などを添えたマレー系の伝統料理で、
マレーシアの“国民食”とも呼ばれている。

一方、ラクサは、スパイスや魚介の出汁を
使った麺料理で、地域によって味が大きく異なる。

ココナッツミルクを使った
濃厚なカレー系ラクサや
酸味のある魚介ベースのラクサなど、
さまざまな種類が存在する。

こうした多民族的な料理が
同じ空間で提供されていることも、
コピティアム文化の特徴の一つと言える。

福建語との関係

コピティアムという名称には福建語が
含まれていることからも分かるように、
華人社会、とりわけ中国南部から移住した
福建系華人との関係が深い。

マレー半島には19世紀後半以降、
中国南部から大量の華人移民が流入した。

福建語は現在でもマレーシア華人社会において
広く使用されており、特にペナンなどでは
日常言語として色濃く残っている。

「kopi」というマレー語と
「tiam」という福建語が結びついて成立した
「コピティアム」という言葉自体が、
多民族・多言語社会である
マレーシアの文化的特徴を象徴
している。

コピティアムは、
単なる喫茶店や飲食店という枠を超え
華人移民社会における重要な社会空間でもあった。

華人移民との関係

コピティアムは、中国南部からの移民の中でも
特に、後発移民であった海南島出身者によって
1930年代にシンガポールで始められたとされる。

海南系華人は、他の華人集団より比較的遅い時期に
東南アジア地域へ移住したため、
既に商業分野へ進出していた
福建系や広東系とは異なり、
飲食業やサービス業に従事する者が多かった。

その結果、海南系華人はコーヒー文化や
喫茶文化の形成に深く関わるようになり、
コピティアム文化の担い手となっていった。

また、テレビが一般家庭に普及する以前、
コピティアムは人びとが集い、
情報交換を行う社会空間としても機能していた。

特に、労働移民として単身で渡来した
中国人男性にとっては、朝食をとりながら
政治談義や交流を行う「男たちの空間」でもあった。

参考文献

櫻田涼子「香り立つハイブリッドなマレー半島の食文化」『The Daily NNA マレーシア版【Malaysia Edition】』第05606号、2015年9月29日。 http://jams92.org/pdf/essay/20150929_sakurada.pdf

これから

今後のブログについて

コピティアムは、単なる飲食店にとどまらず、
中国南部から移住した華人移民たちの
生活空間として形成され、
人びとの交流や情報交換の場として機能してきた。

また近年では、チェーン化や観光化が進む一方で、
「ローカル文化」や「懐かしい空間」
として再評価されている。

今後のブログでは、マレーシアにおける
コピティアム文化に注目し、
その空間が華人社会の中でどのような
役割を果たしているのか

自分なりに見つめていきたいと思っている。

クアラルンプールとイポーへ

2026年7月には、2週間弱クアラルンプールと
マレーシア第3の都市イポーに訪れ
実際に複数の「コピティアム」へ
足を運ぶ予定にしている。

近年、クアラルンプールを中心に店舗数を拡大
しているのが、Oriental Kopi (華陽)である。
ここはマレーシアのコピティアムのメニューを
ベースに香港系のメニューも取り入れていれているのが特徴。

看板メニューは、エッグタルトと
パイナップルパン(菠蘿包)。

そして、イポーは華人文化や
ホワイトコーヒー文化が色濃く残る街
として知られている。

ホワイトコーヒーとは?

一般的なコーヒーよりも低温で焙煎し、マーガリンなどを加えて焙煎することで、苦味を抑えたまろやかな味わいに仕上げたコーヒーを指す。そこにコンデンスミルクを加えて飲むスタイルが、マレーシアでは広く親しまれている。

イポーは、かつて錫(すず)鉱山で栄え、
多くの華人移民が暮らしてきた歴史を持つ。

そのため現在でも昔ながらの
コピティアム文化が生活の中に深く根付いている。

また、マレーシア全土で最も店舗数が多い
コピティアム系チェーン店
「OldTown White Coffee」の発祥地
でもある。

OldTown White Coffee は、
伝統的なコピティアムのスタイルを
現代風にアレンジしたチェーン店として知られ、
マレーシア国内に約200店舗を展開している。

参考文献

東條哲郎『近代マレー半島ペラにおける華人錫採掘』東京大学大学院人文社会系研究科博士論文、2012年。
https://www.l.u-tokyo.ac.jp/postgraduate/database/2012/62.html

“OldTown White Coffee grows to 200 outlets in Malaysia.” The Star, 25 April 2013.
https://www.thestar.com.my/News/Community/2013/04/25/Oldtown-White-Coffee-grows-to-200-outlets-in-Malaysia/

OldTown White Coffee Official Website
https://www.oldtown.com.my/

現地で見てみたいこと

  • どんな人が利用しているのか
  • どのような言語が飛び交っているのか
  • どのくらい滞在しているのか
  • 「ローカルらしさ」はどのように残されているのか
  • チェーン店と昔ながらの店では何が異なるのか
  • コーヒーやその他メニューの味はどうか

といったことを、自分の目で見て
空気を感じながら観察していきたい。

また、コピティアムを「食文化」
としてだけでなく、
「社会空間」や「都市の居場所」
という視点からも考えてみたい。

そして何より、
自分自身がなぜこの空間に惹かれるのか
その理由も探しながら書いていきたい。

ということでこれからのブログを
楽しみにしてくださいね!

この記事を書いた人

LPクリエイター
旅をしながら、心と未来を整える。
自由に生きる力と、
私らしいしごとを育てています。
2026年からはSFC修行予定。
元銀行員、中国料理研究家

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